著者:モンチ(投資歴25年・運用資産2億円/インデックス×社債で完全FIRE)
最近、FIREや経済関連のニュースを開くたびに、「FIRE失敗」「早期リタイアの悲惨な末路」といった見出しが目に飛び込んでくる経験はありませんか。その一方で、「自分もFIREを目指している」と発信する方も増えたという実感があるのではないでしょうか。
今回は、「FIRE失敗」記事が量産される事情と、実際には早期リタイア希望者が増え続けているというデータ、そしてこのまま増加が続いたら社会にどんな影響が出るのかを、海外の先行事例を交えて考察します。
なぜ「FIRE失敗の悲惨な末路」「やめとけ」といった記事が量産されるのか?2つの真実
失敗記事が増える背景には、構造的な理由があると感じています。
1つ目は、メディアの収益構造です。
悲しいかな、人間の心理として「他人の不幸は蜜の味(メシウマ)」という側面があります。メディアにとって閲覧数は直接的な収益源であり、「FIRE最高!」という成功談よりも、「調子に乗って仕事を辞めた人が、インフレで資金ショートして泣いている」という転落エピソードの方が、圧倒的にクリックされやすいのです。
ただ中には、「匿名Aさんの事例」などと実在するように見せかけながらも、人物設定が甘すぎる記事も散見されます。「高級車やタワマンに浪費してFIRE失敗」などの記事もありますが、「それって普通に働いていても失敗するでしょう?なぜFIRE失敗につなげるの?」というツッコミどころ満載です。正直、こういう記事を見るとうんざりさせられます。
2つ目は、インフレや円安によって、ギリギリの資金計画で退職した人の生活が実際に苦しくなっているという現実です。
「メシウマ」記事がすべて作り話というわけではありません。ここ数年の物価高や円安により、かつての「資産3,000万円で節約FIRE」といった余裕のない資金計画でリタイアに踏み切った層が、生活防衛のために再就職を余儀なくされているのは事実でしょう。だからこそ、これからFIREを目指す皆さんには、綿密なライフプランシミュレーションに基づいた「守りの運用」を実践してほしいと思います。
そして私が最も危惧しているのは、物価高に苦しむ人が多い日本社会において、過度な「キラキラFIRE生活」のアピールを続けることは、無用なヘイトを溜め込む結果につながるということです。承認欲求を満たすための発信は、結果的に自分自身の首を絞める行為になるかもしれませんね。
失敗記事の裏で「早期リタイアしたい人」はこの10年で倍増している
興味深いことに、失敗記事があふれる一方で、早期リタイアを望む層は確実に増えています。
パーソル総合研究所の調査によれば、20代男性就業者のうち、50歳以下でのリタイアを希望する割合は2017年の13.7%から2024年には29.1%へと、2倍以上に増加しています。30代男性でも、55歳以下でのリタイア希望が2017年の14.3%から2024年には28.1%へと大きく伸びました。
※参考:パーソル総合研究所|早期リタイアを希望する20~30代の若手男性が増えているのはなぜか
なぜここまで増えたのでしょうか。
同調査では「働くことが好きではないから」という理由が最も多い一方、「リタイア後の生活のための蓄えが十分あるから」という計画的な回答も年々増えているのが特徴です。FIREや資産運用が一般的なブームになったことや、共働き世帯・独身者が増えて資産を築きやすくなった環境も背景にあると考えられます。
若年層は失敗記事を浴びるほど見ているはずなのに、早期リタイア願望はむしろ強まっているのが現状です。
このままFIRE希望者が増え続けると社会はどうなる?インフレと自己矛盾のリスク
仮に、これだけ増えている早期リタイアの希望が実際の行動にまで結びついていったら、社会はどうなるでしょうか。
非労働者が増えれば、社会保険料や税収は目減りし、その分の負担は現役世代にのしかかります。同時に、働く人の数が減る一方で、リタイアした人たちの消費自体は続くため、需要過多によるインフレが起きやすくなります。物価が上がれば、せっかく築いた資産の実質価値は目減りし、FIRE生活そのものが苦しくなります。
つまり、FIREを目指す人が増えすぎること自体が、FIREを難しくするという自己矛盾を抱えています。「この流れが続けば、いずれFIREという選択肢自体がなくなってしまうのでは」と思われるかもしれません。
ただ、実際にはそこまで極端な話にはならないだろうと私は思っています。労働市場には自己修正メカニズムが働くため、最終的には一部の人だけがたどり着ける均衡状態に落ち着くはずです。
アメリカの「大退職時代」とアンリタイア(再就職)現象から読む日本の未来
この先の展開を占ううえで参考になるのが、アメリカで実際に起きた「大退職時代(Great Resignation)」です。コロナ禍後、記録的な数の労働者が一斉に自主退職し、深刻な人手不足を招きました。企業は人材確保のために賃金を大幅に引き上げざるを得なくなり、それが物価上昇にも拍車をかけました。
※参考:Wikipedia|Great Resignation
面白いのはその後の展開です。株高の恩恵を受けて早期にリタイアした層の一部が、生活費の高騰と、人手不足で跳ね上がった好待遇の求人に惹かれて、再び労働市場に戻る「アンリタイア(Unretirement)」という動きが広がったのです。もし日本でも「FIRE希望者急増」がこのまま実際のリタイアの波につながっていけば、同じようなサイクルをたどる可能性は十分にあると考えています。
50代でFIRE達成した私がおすすめする「平穏な処世術と守りの運用」
こうした社会の構造と大衆の心理を理解した上で、私たちFIRE達成者(あるいはこれから達成する人)はどう生きるべきでしょうか。
「FIREなんてやめておけ!」と極端に振り切る必要はありませんが、少なくとも「誰でも簡単にFIREして人生一発逆転!」というような安易な煽りからは距離を置くのが、安全かつ賢明だと思います。
「社会の中で過度に目立たず、静かに生きること」
無理に不幸を装う必要も、豊かさをひけらかす必要もありません。淡々と資産を守り、無駄な人間関係の摩擦を避けることこそが、最も確実な生き残り戦略と言えると思います。
さいごに
今回お伝えしたポイントをまとめます。
- 「FIRE失敗」記事が量産されるのは、メディアの収益構造とPV至上主義という事情がある
- その一方で、早期リタイア希望者はデータ上、この10年で確実に倍増している
- 希望者が実際の行動に結びつくほど、インフレが進みやすくなりFIRE自体の難易度が上がる
- アメリカの「大退職時代」と「アンリタイア」現象は、日本の将来を占ううえで参考になる先行事例である
- 目立たず堅実に資産を守りながら、社会と緩やかなつながりを持っておくことが最大の安全策になる
ネットのネガティブな記事に踊らされることなく、自分なりのシミュレーションを信じて、淡々と「守りの運用」を続けていきましょう。


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