著者:モンチ(投資歴25年・運用資産2億円/インデックス×社債で完全FIRE)
私が入っているFIREのオンラインコミュニティで、最近とても白熱しているテーマがあります。それが、「年金を繰り上げるか、繰り下げ受給するか」 という議論です。
SNSやマネー雑誌では「年8.4%増えるから繰り下げがお得!」とか「税金や社会保険料の手取りを考えると繰り上げ受給が最強ではないか?」という話を見かけますが、まさにその内容です。コミュニティ内では、どちらかというと繰り上げ派が優勢な印象です。各人の状況(資産や家族構成等)によって正解が異なるため、コミュニティ内で「雑談会をやろう」と盛り上がっています。
結論から言うと、手取り最大化の観点では「繰り上げ」が有利になるケースが多いのも事実ですが、私自身は「70歳まで繰り下げ受給する」と決めています。
今回は、なぜ額面と手取りで「正解」が逆転するのかを解説しつつ、FIRE民が陥りがちな「自分で運用する罠」、そして私がそれでも繰り下げる理由について記事にします。
【手取りの損益分岐点】なぜ「繰り上げ受給」が有利?額面と税金の残酷なズレ
そもそも、なぜリテラシーの高い人たちが「年金は早めにもらった方がいい(繰り上げ派)」と言うのでしょうか?
その最大の理由は、「公的年金等控除」の罠にあります。年金収入というのは、全額がそのまま使えるわけではありません。収入から控除を引いたものが「所得」となり、この所得をベースに所得税、住民税、そして重くのしかかる国民健康保険料や介護保険料が計算されます。
この控除の仕組みが曲者で、年金収入が多くなるほど、控除の効率が悪くなる低減構造になっています。つまり、繰り下げて年金の額面をドカンと増やしても、税金や社会保険料にガッツリ持っていかれ、手残りが相殺されてしまいます。
単純に「年金の額面」だけで損益分岐点を計算すると、60歳、65歳、70歳の受給開始では「80歳前後」で逆転します。しかし、税金などの負担を引いた「手取り」で計算すると、損益分岐点はずっと先になり、繰り上げが圧倒的に有利になるケースが多くなります。
ちなみに、一般的によく言われている、賢い「繰り上げ派」の方の王道ルートはこうです。
まず会社を辞め、失業保険をきっちり満額もらいます(※年金をもらい始めると失業保険はもらえなくなるため)。失業保険をもらい終わった後に、年金を繰り上げ受給する。これにより、年金の額を抑えつつ、税などの負担を最小限にして生活の基盤を作る戦略です。
老後の最強カード「住民税非課税世帯」の壁はいくら?
手取りを最大化する上で、最大のターゲットとなるのが「住民税非課税世帯」になることです。ここに入れば、税金がゼロになるだけでなく、高額療養費制度の上限が下がり、介護保険料も激減するという、計り知れない恩恵があります。
では、収入が公的年金のみの場合、いくらなら非課税世帯になれるのでしょうか?
私が住んでいる大阪府を代表して、大阪市の「公的年金等受給者の市民税・府民税・森林環境税非課税限度額」の表を見ると以下の通りです。
| 同一生計配偶者 および扶養親族の人数 | 65歳未満の方 | 65歳以上の方 |
|---|---|---|
| なし | 105万0000円以下 | 155万0000円以下 |
| 1人 | 171万3334円以下 | 211万0000円以下 |
| 2人 | 218万0001円以下 | 246万0000円以下 |
| 3人 | 264万6667円以下 | 281万0000円以下 |
| 4人 | 311万3334円以下 | 316万0000円以下 |
私は妻と二人暮らしなので、「同一生計配偶者および扶養親族の人数=1人」の行を見ます。
- 65歳未満の方:公的年金等収入金額が「171万3,334円」以下
- 65歳以上の方:公的年金等収入金額が「211万0,000円」以下
これが、非課税世帯になれる絶対的なボーダーラインです。
では、我が家の場合はどうか。ねんきんネットで最新の数字を出したところ、私と妻の年金を65歳で同時にもらうとすると、世帯合計で「約286万円」になります。60歳まで繰り上げても「約217万円」
……はい、完全にアウトです(笑)。
65歳以上の壁である211万円を超えているため、そのまま受給すれば非課税世帯にはなれません。
もちろん、過去の記事で紹介したように「夫だけ繰り上げて加給年金をもらい、妻は繰り下げる」といったパズルを解けば非課税世帯に潜り込める可能性はゼロではありませんが、あまりにも複雑になりすぎるため、今回は割愛します。
「年金を繰り上げてNISAで運用」がFIRE民には危険な理由
繰り上げ派の方の意見でよく見かけるのが、「繰り上げると1ヶ月につき0.4%(最大24%)減額されるけど、早くもらった年金を自分でNISAで運用すれば、その減額分くらい簡単に取り返せる!」という主張です。
確かに、投資の利回りでカバーするという理屈は成り立ちます。しかし、私はこの戦略を手放しでおすすめすることはできません。
第一の理由:寿命のタイムリミット
年金は老後の生活を支える虎の子です。もし、もらった年金をインデックス投資に突っ込み、その直後にリーマンショック級の大暴落が来たらどうなるか?
実際に、2008年のリーマンショックの際、日経平均株価やS&P500が暴落前の高値水準まで回復するのには約5年近くの歳月を要しました。若い頃なら「気絶して放置」で待てますが、老後にはその「待つ時間」がありません。市場の回復より先に、手元資金がショートするリスク、または精神的に耐えられないリスクが極めて高いのです。
第二の理由:FIRE民特有の税金問題(NISA枠)
当ブログの読者のようなガチのFIRE民であれば、おそらく1,800万円のNISA枠は埋まる予定の方が多いはずです。NISA枠がない状態で運用をすると「特定口座」となり、利益に対して約20%の税金が引かれます。これでは運用の効率がガタ落ちです。
逆に、「まだNISA枠がガラ空きだよ」という方は、そもそも投資経験が浅い可能性があります。そんな方が、老後の命綱である年金をリスク資産に回すのは、あまりにも危険です。
資金に余裕がある富裕層の「遊び」ならアリかもしれませんが、基本戦略としてはおすすめしません。
【結論】それでも私が「70歳繰り下げ」を選ぶ3つの理由
ここまで色々なことを書きましたが、なぜ私は「70歳まで繰り下げる(遅らせる)」つもりなのか? それには、私個人の資産状況と、国が用意した制度のルールが深く関係しています。理由は大きく3つです。
1. 私的年金だけなら「非課税世帯」になれるから
実は私、60歳〜70歳の10年間、民間保険会社で積み立てている「私的年金」を受け取る予定になっています。 保障の内容は年120万円×10年間です。この60代の期間は「私的年金だけ」であれば、見事に住民税非課税世帯の枠内に収まります。
ここに公的年金を上乗せしてしまうと、あっさり非課税の壁を突破してしまい、税金と社会保険料が高騰してしまいます。だからこそ、「公的年金は70歳までお預け」にするのが、私にとっての最適解となります。
2. iDeCoの「退職所得控除枠」を70歳まで育てたいから
以下の記事でも詳しく書きました。
私は53歳で退職した際、会社の退職金等で「退職所得控除枠」を完全に使い切ってしまいました。しかし、現在移管しているiDeCoに拠出し続ければ、「1年あたり40万円」の非課税枠が新たに育っていきます。2026年の改正で70歳まで拠出できるようになったため、私はこの枠を最大限に育てたいと思ってます。
しかし、iDeCoのルール上、「公的年金をもらい始めると、iDeCoへの拠出ができなくなる」という大きな罠があります。そのため、iDeCoを70歳まで続けるためには、公的年金も必然的に70歳まで繰り下げる必要があります。
3. 年金は「長生きリスク」への最強の保険だから
そして最後は、私の投資哲学です。
私は年金を「得するか損するか」の金融商品だとは思っていません。「想定外に長生きしてしまった時の保険」だと捉えています。
もし私が早く死んでしまい、年金をもらい損ねたとしても、生前にお金に困らず生活できていたのなら、別に問題はありません(あの世にお金は持っていけませんしね)。
逆に一番恐ろしいのは、90歳、100歳と長生きし、手元の資産が枯渇してしまうことです。繰り下げて受給額を最大化しておけば、死ぬまで手厚いキャッシュフローが保証されます。これが何よりの安心感になります。
もちろん、これは「年金の受給を遅らせても、手元の現金や運用資産で十分生活できる」という、FIRE民だからこそ言える強者の戦略であることは否定しません。
さいごに
年金の受け取り方に、万人に共通する「絶対の正解」はありません。
FPが言う「額面が増えるから繰り下げがお得」を盲信してはいけませんし、逆に「手取りが増えるから絶対繰り上げだ!」と決めつけるのも危険です。
大切なのは、自身の年金見込額、家族構成、iDeCoやNISAの状況、そして「何歳まで生きるリスクをカバーしたいか」を総合的に考え、自分だけのシミュレーションを行うことだと思います。
PS
皆さんはどうですか? 税金や保険料の手取りを優先して「繰り上げ」を選びますか? それとも、長生きの保険として「繰り下げ」を選びますか? ぜひ、皆さんの戦略や悩みを教えてください!



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