著者:モンチ(投資歴25年・運用資産2億円/インデックス×社債で完全FIRE)
先日、SNSのタイムラインが「塩野義製薬が定年廃止、退職一時金も廃止」というニュースで一気にざわつきました。
これを見て、「うちの会社もそのうち後出しジャンケンでルールを変えられるのでは?」「もしかして、これまで積み立ててきた退職金も没収されるのか?」「結局、死ぬまで働けということか……」と、ざわっとした不安を覚えた40代・50代の方も多いのではないでしょうか。
ですが、結論から申し上げますと、退職金が「没収」されるわけではありません。確定拠出年金(DC)への移行が真実です。しかし、そこから透けて見えるのは、会社に依存することがいかにリスクであるかという大企業のシビアな現実です。
今回は、制度の裏側を解説しつつ、多くの人が見落としている「再雇用のリアルな現実」、そして「なぜ今、会社に依存しない準備が必要なのか」を、私の実体験を交えながらお話しします。
【勘違い注意】塩野義製薬「退職金廃止」の真相は没収ではなくDC移行
今回のニュースの要点は以下の通りです。
塩野義製薬は2027年度から定年を事実上廃止し、給与水準を維持したまま70歳や80歳を超えても働き続けられる制度を導入する方針を固めました。なお、給与水準を落とさず長く働けるようになることから、退職一時金は廃止されます。
参考:読売新聞オンライン
読売新聞オンラインの報道にある「退職一時金を廃止」という言葉が独り歩きし、SNSなどで「今まで積み立てた退職金がゼロになるなんて、後出しジャンケンだ!」と大きな誤解が広がってしまい、Xなどで大きくバズっていました。
しかし、冷静に別の報道にも目を通してみましょう。
日本経済新聞のニュース(有料)を確認すると、過去に積み立てた額が失われるわけではなく、確定拠出年金(DC)などの制度に移行するだけであることがわかります。決して会社に没収されるわけではないのです。
では、なぜわざわざ長年続いた制度を変えるのでしょうか? 会社側の発表では、「給料水準を落とさずに、長く働けることから、退職一時金は廃止する」とされています。一見すると社員思いの理由に見えますが、経営的な視点で見ると別の思惑が浮かび上がります。
それは、会社側が将来の運用リスクを自分で抱え込むのをやめ、社員個人の自己責任へシフトさせたいからです。退職一時金は、運用がうまくいかなければ会社の財務を圧迫する「経営上の時限爆弾」になりかねません。それを取り除きつつ、年齢に関わらず成果で処遇を決める仕組みに切り替える。一部では「後出しジャンケンだ」と受け止める声もありますが、企業側の理屈としては、極めて合理的な経営判断だと言えます。
定年廃止の罠?塩野義の新制度と一般的な「再雇用制度」の比較
「給料水準を維持したまま、80歳過ぎても働ける」と聞くと、多くの再雇用のサラリーマンからすれば夢のような話に聞こえるかもしれません。しかし、ここにも冷静な視点が必要です。
そもそも日本の企業には、高年齢者雇用安定法という法律により、希望する社員全員を原則65歳まで雇用し続ける義務があります。企業は「定年延長」「定年廃止」「再雇用制度」のいずれかで対応するよう求められますが、多くの企業は、この義務を「再雇用(嘱託)」という形でクリアしています。
事実、厚生労働省の「高年齢者雇用状況等報告」を見ても、65歳までの雇用確保措置として「定年制の廃止」を行っている企業は全体のわずか4%未満に過ぎず、約65%の企業が「継続雇用制度(再雇用)」を選択しています。つまり、日本企業の大多数は「いったん定年で退職させ、安い給料で再契約する」という道を選んでいるのが現実なのです。
さらに見逃せないのが、「70歳までの就業確保措置」の広がりです。同報告によると、すでに全体の約3割の企業が「70歳まで働ける制度」を導入し始めています。
※参考:厚生労働省|令和7年高年齢者雇用状況等報告集計結果 発表資料
一見「長く働けて安心」と思われがちですが、手放しでは喜べません。裏を返せば、これは「安い給料のまま70歳までコキ使われるか」、あるいは「定年が廃止されても、終わりのない成果主義のプレッシャーに70歳まで耐え続けるか」という、過酷なサバイバルレースが本格化しているサインだからです。
それでは、今回話題になった塩野義製薬の新制度と、一般的な再雇用制度を比べるとどうなるでしょうか。次のような明確な違いがあります。
| 項目 | 一般的な企業(再雇用・嘱託) | 塩野義製薬(新制度) |
|---|---|---|
| 雇用形態 | 嘱託社員などに切り替え | 正社員のまま継続 |
| 給与水準 | 大きく下がるケースが多い | 定年前の水準を維持可能 |
| 年齢の上限 | 65歳が事実上の上限 | 上限なし(70歳・80歳超も可) |
| 更新の条件 | 希望すれば原則全員更新 | 年1回、意思と成果を踏まえて判断 |
ですが、見落としてはいけないのが右下の「更新の判断」です。
65歳以上は1年ごとに継続を判断されるとされており、これはつまり、60歳を過ぎても、70歳を過ぎても、毎年シビアな成果を求められ続ける”終わりなき生存競争”に身を置くということでもあります。給与維持の代償として、成果主義のプレッシャーからは一生逃れられない。そういう制度設計だと理解しておくべきでしょう。
もし自分がこの立場だとしたら、体力が低下していく中で常に会社へ実力を証明し続けなければならないプレッシャーに負けて途中で退職してしまうこと間違いなしです(苦笑)。
【体験談】「同じ仕事で給料6割」大企業再雇用の悲惨なリアル
一方で、多くの日本企業が採用している「一般的な再雇用制度」の実態はどうでしょうか。ここからは、私の実体験のお話になります。
私が長年勤めていた日経平均採用の大企業でのリアルな話です。
私の職場には、60歳で定年を迎え、65歳までの再雇用制度で「嘱託」として働き続ける先輩たちが何人もいました。毎年契約が更新されるのですが、彼らが口を揃えてボヤいていたのが、この言葉です。
「仕事の内容は現役時代と全く変わらないのに、給料が6割になってしまった。残業はないとはいえ、本当に割に合わないよ」
役職こそ外れているものの、実際の責任や仕事の中身はほとんど変わらない。それなのに、給与水準だけが機械的にストンと下がる。この構造の中で、かつてバリバリ働いていた先輩たちが、少しずつモチベーションを失っていく姿を、私は間近で見てきました。
「定年延長で長く働ける」と聞くと聞こえは良いですが、それは同時に「割に合わない条件で会社にしがみつく」というリアルな代償を伴うことも多いのです。
このように会社の制度に身を委ねていると、思わぬところで損をすることがあります。実は私自身も、大企業を退職する際に「有給消化」と「ボーナス規定」の確認が甘く、約120万円もの大金を逃してしまうという痛い失敗を経験しています。会社の制度はしっかり把握しておかないと本当に恐ろしいです。私の痛恨の失敗談は以下にまとめています。
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退職金廃止・定年延長時代に40代・50代がFIREを目指すべき理由
退職金制度の変化や再雇用の厳しい現実を踏まえ、私たちは今後のキャリアや資産形成についてどう動くべきなのでしょうか。
辞める「口実」がなくなり、一生会社に縛られるリスク(デメリット)
一つ目は、心理的なリスクです。
これまで「定年」は、良くも悪くも人生の「強制的な区切り」として機能していました。「60歳になったら辞める」という明確なゴールがあったからこそ、その後の人生を考えるきっかけにもなっていたのです。
ところが、定年が廃止されると、この区切りが消えてなくなります。すると何が起きるか。「まだ働けるし」「辞める理由も特にないし」と、自ら退職を決断できないまま、目標もなく惰性で会社に居座り続ける——いわば「ズルズル働き続けるリスク」が生まれます。
区切りがないというのは、自由なようでいて、実は「自分で人生を決める覚悟」を常に問われ続けるということでもあるのです。
終身雇用の終焉…50代から目指す現実的な「FIRA60(サイドFIRE)」
二つ目は、より本質的な変化です。
退職金がDC化(=自己責任化)され、定年後の給与も成果主義や大幅減が当たり前になっていく。そうなると、これまで日本人が信じてきた「一つの会社にしがみついていれば安泰」という終身雇用のメリットは、もはやほとんど消滅したと言っていいでしょう。
だからこそ、これからの時代に合理的なのが、会社への依存度を下げるという発想です。自分の資産からの収入(インデックス投資や債券など)と、無理のない範囲の労働を組み合わせる「サイドFIRE」。あるいは、60歳をゴールに手堅く逃げ切る生き方です。
「FIREなんて自分には無理だ」と思っている40代・50代の方には、公的年金を計算にしっかり組み込み、60歳を現実的なゴールとして設定する「FIRA60」という考え方を強くおすすめします。極端な節約で今を犠牲にせず、生活を楽しみながら目指せる戦略です。詳しく以下記事で解説しています。
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まとめ|会社に依存せず、ニュースの本質を見極めよう
今回は、話題になった塩野義製薬の「定年・退職金廃止」のニュースについて、その本当の意味を整理してきました。最後に要点を3つにまとめます。
- 退職金は「没収」されるのではなく、確定拠出年金への「移行」が実態。制度変更の本質は、運用リスクの個人シフトと成果主義化にある。
- 一般的な再雇用制度は「同じ仕事で給料6割」というケースも珍しくなく、想像以上にシビアな現実がある。
- 会社の制度や再雇用後の給与に期待しすぎず、自分で資産を築く土台作り(FIRE的な考え方)を、今のうちから始めておくことが何よりの備えになる。
ニュースの見出しの言葉だけに振り回されず、その本質を冷静に見極める。それだけで、今後の働き方やお金との向き合い方は、大きく変わってくるはずです。
PS
皆さんの会社では、定年や再雇用について、どのような制度になっていますか?「うちも他人事じゃないな」と感じた方がいらっしゃれば、ぜひコメント欄で教えてください。




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