4%ルールは暴落に弱い?「逆ドルコスト」の罠と取り崩し3手法

4%ルール崩壊!? 逆ドルコストの罠 FIRE準備・実行

 著者:モンチ(投資歴25年・運用資産2億円/インデックス×社債で完全FIRE)

FIREに向けて、毎月の積立投資をコツコツと頑張っている皆さん。少し先の未来を想像したとき、「いざ取り崩す時、どんなルールで売ればいいの?」と手が止まってしまうことはありませんか?

「有名な4%ルールに従うつもりだけど、もしFIRE直後に大暴落が来たら、本当に資産が枯渇しないの?」そんな漠然とした不安を抱えている方も多いかもしれません。

実は、資産を「増やす時の定石」と「取り崩す時の定石」は真逆なのです。そして、多くの方が当たり前のように計画している「定額での引き出し(4%ルールなど)」は、取り崩しにおいては数学的に不利な手法になり得ます。

結論から言うと、定額を取り崩す4%ルールには「逆ドルコスト」という見落とされがちな弱点があります。これを回避し、資産を長持ちさせるには「ガードレール戦略」「PMT方式」「VPW(変動率取り崩し法)」という3つの柔軟な取り崩し手法を知っておくことが不可欠です。

この記事では、知らずに陥りがちな「逆ドルコスト平均法」の罠と、それを避けて資産を長持ちさせる3つの取り崩し手法について解説します。

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【積立の基本】金額一定で買う「ドルコスト平均法」のメリットをおさらい

まずは積立投資のおさらいです。ここで皆さんに質問です。

【質問】
積立投資を行うとき、毎回どちらの買い方をするのがよいでしょうか?
 ・「口数(買う投資信託の数量)」を一定にする
 ・「買い付け金額」を一定にする

【答え】
「買い付け金額」を一定にする

いわゆる「ドルコスト平均法」ですね。基本中の基本です。

毎月同じ「金額」で買い続けると、株価が安い時には多くの口数を、高い時には少ない口数を買うことになります。この自動的な調整によって、平均取得単価が価格の単純平均より下がり、下落局面でも淡々と続けやすくなります。積立投資で「下落局面は絶好のチャンス」と言われるのは、この仕組みがあるからです。(※一括投資より有利になる、という意味ではありません。)

「そんなの常識でしょ?」と思われましたよね。そう、積立では常識です。だからこそ、取り崩しの段階で頭を切り替えられない人が多いのではないかと感じています。

【取り崩しの罠】FIRE直後の暴落で資産が溶ける「逆ドルコスト」とは?

積立時にはドルコスト平均法(金額一定)で買うのが定石だということはご理解いただけたと思います。

では、さらに質問です。

【質問】
取り崩す(解約する)時は、以下のどちらが有利でしょうか?
・毎回同じ「口数」を売る
・毎回同じ「金額」を売る

【答え】
毎回同じ「口数」

意外かもしれませんので、具体例で比べてみましょう。

1,000口(評価額1,000万円)を持っていて、3か月間、生活費のために取り崩します。価格は「1万円 → 5,000円(暴落)→ 1万円(回復)」と動いたとします。

取り崩し方1か月目
(1万円)
2か月目
(5,000円)
3か月目
(1万円)
売却口数
の合計
残り口数
金額一定
(毎月10万円)
10口20口10口40口960口
口数一定
(毎月10口)
10口10口10口30口970口

※説明を分かりやすくするため、1口=表の価格として計算しています(実際の基準価額は1万口あたりの価格です)。

仮に、1口の価格が「1万円」の時、毎月10万円の生活費を取り崩したいとします。この場合、売却するのは「10口」で済みます。

しかし、相場が大暴落して価格が「5,000円(半値)」になってしまったらどうでしょう。同じ10万円の生活費を確保するためには、「20口」も売却しなければなりません。

つまり、相場が下がっている一番苦しい時に、通常の2倍のスピードで「元本(口数)」を削り取ってしまうのです。

しかも、その後に相場が2倍にV字回復しても、いったん売った口数は戻ってきません。回復の恩恵を受けるための口数が、手元に少ししか残っていないのです。これがリタイア直後の暴落で怖い「シーケンスリスク(運用成績の順序によるリスク)」の正体です。

積立の時に自分を助けてくれていた定額の仕組みが、取り崩し期には資産を急速に減らしかねない要因へと180度反転する。 これが「逆ドルコスト平均法」と呼ばれるものです。

取り崩しにおいて一番恐ろしいのは、「リタイア直後に相場が暴落し、その後回復するパターン」です。安い時に生活費のために大量の口数を売りさばいてしまうと、資産の寿命は著しく縮みます。
だからこそ、私は資産の大部分を安全な債券に置き、さらに生活費の数年分を「現金バケツ(無リスク資産)」として確保しています。暴落時には株を売らずに現金から生活費を出すことで、この恐ろしい「逆ドルコスト」を物理的に回避しているのです。

なぜ「4%ルール」はFIRE民に人気なのか?メリットと見落とされがちな弱点

ここで疑問が浮かびませんか?

取り崩し時の手法で有名な4%ルールは、初年度に資産の4%を引き出し、翌年以降はその金額(をインフレで調整した額)を引き出し続けるため、実質的に「金額一定」の取り崩しです。数学的には逆ドルコストとなり不利なはずなのに、なぜこれほど人気なのでしょうか。

その理由は、大きく分けて2つあると考えます。

1つ目は、「いくら貯めればいくら使って暮らせるかがひと目で分かる圧倒的なわかりやすさ」です。「年間支出×25倍=必要資産」と、掛け算だけで目標が決まります。しかも過去の米国市場のデータ(株式50〜75%・30年間の場合)では、下落時に多くの口数を売る不利な条件でも、4%なら約95%の確率で30年間資産が持つとされています。この実績が安心感につながっています。
※参考:Retirement Savings: Choosing a Withdrawal Rate That Is Sustainable

2つ目は、人間の心理と生活のリアルです。定率(パーセンテージ)で取り崩すと、相場が30%下がれば毎月の生活費も3割減ります。でも、家賃・食費・社会保険料などの固定費は、暴落しても安くなりません。理論上は有利な方法でも、毎月の収入が変動するストレスに耐えられる人は、意外と少ないのです。

ですから、私は4%ルールを否定するつもりはありません。生活が安定するという大きなメリットがあります。しかし、50代でFIREした私としては、あの世に持っていく大金を残すために働き続けるより、相場に合わせた柔軟な引き出しを行う方が重要だと考えています。その方が、限られた健康な時間をより有効に使えるからです。

4%ルールの弱点を補う!FIRE失敗を防ぐ3つの「柔軟な取り崩し手法」

では、4%ルールの定額引き出しによる「逆ドルコストの罠」を防ぎつつ、現実の生活も成り立たせるにはどうすればいいのでしょうか。

その答えは、「定率」や「残高に応じた変動率」を取り入れた柔軟な取り崩し手法(動的ルール)を採用することです。相場が悪い時には取り崩し額を少し抑え、資産の過度な減少を防ぐ。「生活費の安定度と資産寿命の最大化、どちらを優先するか」 という視点が重要になります。

ここでは、退職後の資産管理の分野で研究・実践されてきた、逆ドルコストを防ぐ3つの代表的な手法をご紹介します。

1. ガードレール戦略(相場に合わせて生活水準を柔軟に調整)

1つ目は、引き出し率に「上限」と「下限」のガードレールを設け、相場に応じて生活費を増減させる手法です。
※参考:Decision Rules and Maximum Initial Withdrawal Rates

例えば、相場が絶好調で上限のガードレールを超えたら、生活費を10%アップして旅行や趣味で少し贅沢をする。逆に、暴落して下限を割ってしまったら、生活費を10%カットしてしばらく節約モードに入る、といった具合に柔軟に対応します。

ガードレール戦略の具体的なルールや、1億円スタート時のシミュレーションについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

2. PMT方式(Excelで毎年の取り崩し額を再計算する手堅い手法)

2つ目は、ExcelのPMT関数(一定期間で資産を使い切る場合の、毎年の取り崩し額を計算する関数)を使い、「現在の資産残高」と「残り年数」から、今年の取り崩し可能額を毎年計算し直す手法です。

この方法は、50代のFIREにおいて特に効果を発揮します。寿命を迎える頃に資産を使い切る前提で計算するためです。

たとえば、50歳・資産7,000万円・実質利回り4%・90歳までの40年で使い切る前提なら、今年の取り崩し額は約353万円です。毎年見直すので、暴落した年は予算が自動的に減り、資金ショートを防げます。

同じ前提で年間生活費400万円の必要資産を計算すると、4%ルール(25倍)の1億円に対して約7,917万円です。目標額が約2,000万円下がるので、50代からFIREを目指す方には現実的なアプローチだと思います。

目標額を下げて現実的にFIREを目指す「PMT方式」の計算方法や、守りの投資家としての必須条件は以下の記事をご覧ください。

3. VPW・変動率取り崩し法(年齢と共に引き出し率をアップし使い切る)

3つ目は、寿命(年齢)が近づくにつれて、引き出しのパーセンテージを徐々に上げていく「VPW」という手法です。Bogleheadsのコミュニティが開発した方法で、Bogleheads Wikiに解説があります。

せっかく貯めたお金を生きている間に使い切る「Die with Zero」を目指す手法で、常にその時の残高に対して割合で引き出すため、途中で資産が尽きることはありません(設計上、最終年齢で使い切る仕組みです)。
実際、私(FIRE時点の53歳・債券70%の保守的ポートフォリオ)のケースをVPW早見表に当てはめると、引き出し率は3.8%(年間約874万円)になりました。

死ぬ時に一番お金持ちになる悲劇を防ぎ、老後資金を効率よく使い切る「VPW」の仕組みや、日本の年金制度と組み合わせた最強の対策はこちらで徹底解剖しています。

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まとめ|FIRE後の取り崩しは「相場に合わせて柔軟に」

FIRE達成は決してゴールではありません。そこから先は、「大切な資産を守りながら、いかに有意義に使っていくか」という新たなスタートです。

今回ご紹介した「柔軟な取り崩し」を実践するために、FIRE準備中である今から絶対にやっておくべきことがあります。それは 「息をしているだけでかかる最低限の生活費(固定費)」と「ゆとりを生むための生活費(変動費)」を明確に分けて把握しておくこと です。
相場が悪い時にスパッと変動費をカットできる「家計の筋肉」をつけておくことが、どんな高度な計算式よりも強力な防御力になります。

それでは、今回のポイントをまとめます。

  • 積立投資は「金額一定(ドルコスト平均法)」が定石。
  • 取り崩し時は「口数一定(または定率)」が数学的に有利だが、現実には工夫が必要。
  • 4%ルールは分かりやすいが、相場下落時に多くの口数を売ることになる「逆ドルコスト」の弱点が潜んでいる。
  • ガードレール戦略、PMT方式、VPWといった柔軟な取り崩し手法と「現金バッファ」を組み合わせることが重要。

投資に「絶対の正解」はありませんが、仕組みの罠を知っているかいないかで、心の平穏は大きく変わります。ご自身のライフプランや価値観に合った取り崩し方を見つけ、相場のノイズに怯えない、安心できるリタイア生活を構築していきましょう。

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