著者:モンチ(投資歴26年・運用資産2億円/インデックス×社債で完全FIRE)
先日公開した証券口座のパスキー設定に関する記事には、予想を上回るアクセスがありました。皆さんのセキュリティ対策への関心の高さを実感する一方で、「もし実際に不正アクセスの被害に遭ってしまったら、お金は本当に全額補償されるのか?」という疑問がわいてきました。
過去実際に起こった事例から、「ネット証券は被害額の50%補償、対面証券は100%原状回復」を思い浮かべる方もいると思います。しかし、今回改めて各社の公式発表を調べてみた結果、その常識はすでに過去のものになっていることがわかりました。
わかったのは、今は被害者ごとに状況を見て補償を決める「個別審査」の時代になっている、ということです。パスキーなどのセキュリティ設定をしていたかどうかが、補償の有無や金額に響く可能性があります。
この記事では、各証券会社の最新の補償方針を比較しながら、私たち個人投資家が資産を守るために今すぐやるべき全口座のセキュリティ総点検について解説します。また、補償金額以上にもある「流動性リスク」についても触れていきます。
【調査結果】「全額補償される?」調べて分かった『一律補償の終焉』と『個別審査』のリアル
結論から言えば、「被害に遭っても証券会社がなんとかしてくれる」という全額補償の幻想は、すでに捨てなければなりません。現在、顧客自身のセキュリティ管理状況が厳しく問われる「個別対応」へとシフトしています。
きっかけは、2025年5月2日に日本証券業協会(JSDA)が公表した10社の申し合わせです。対象は、SMBC日興、SBI、大和、野村、松井、マネックス、みずほ、三菱UFJ eスマート、三菱UFJモルガン・スタンレー、楽天の10社。約款の内容にかかわらず、一定の被害補償を行う方針が示されました。
※詳細:今般のインターネット取引サービスにおけるフィッシング詐欺等による証券口座への不正アクセス等による対応について(10社申し合わせ)
ただし、ここに条件がつきます。
それは、「約款に関わらず一定の被害補償を行う方針ではあるものの、顧客側のID・パスワード管理状況やセキュリティ利用状況を勘案し、個別に精査する」というものです。
つまり、パスワード管理の怠慢など、顧客側に落ち度があると見なされれば、補償対象外や大幅な減額になるリスクが極めて高い時代になったということです。
そして、リスクとしては、補償以外にも資金ロックという問題も残ります。
もし不正アクセスを受けてしまうと、調査や審査、口座凍結の期間中、生活費や運用資金が数週間から数ヶ月にわたって完全にロックされる「流動性リスク」です。
期間は被害の状況次第ですが、数週間から数ヶ月、資金を動かせなくなる可能性があります。せっかく時間とお金の自由を手に入れたのに、資金繰りが止まってしまう。そんなダメージが発生するかもしれません。
【主要10社比較】ネット・対面証券の最新補償方針とセキュリティ要件
では、実際に各社はどのような基準で補償を判断しているのでしょうか。JSDAで申し合わせした10社の方針について公式発表をもとに要旨をまとめました。
| 証券会社 | 補償方針(要旨) | 公式情報 |
|---|---|---|
| SBI証券 | 2025年10月25日以前の被害:不正売買の損失・評価損の原則50%を補償。売買手数料・為替スプレッド・信用金利・強制決済手数料は100%補償。被害者に一律1万円のお見舞金。 2025年10月26日以降の被害:ID・パスワード管理やパスキー等の利用状況を踏まえ、補償の有無・内容を個別に検証 | SBI証券 |
| 楽天証券 | 被害額の50%を基本に補償。不正取引の売買手数料は返金、被害者に一律1万円のお見舞金。取引時の利用状況を個別に確認したうえで最終判断 | 楽天証券 |
| 松井証券 | 2025年7月公表分は、損害額の1/2を補償し手数料は全額返金。ただし2025年9月29日以降の被害は、一律1/2ではなく顧客ごとの事情に応じて決定 | 松井証券 |
| マネックス証券 | パスキー提供開始前の被害は、約款等にかかわらず顧客ごとの事情に応じて補償。パスキー未設定や認証情報管理の落ち度があれば、補償しない可能性あり。提供開始後は約款等に従う | マネックス証券 |
| 三菱UFJ eスマート証券 | 被害状況を精査し、個別の事情に応じて原状回復を含めて対応。公開方針上、一律の補償率は確認できない | 三菱UFJ eスマート証券 |
| 野村證券 | 個別判断。パスキー未設定の口座では補償が限定的になる可能性あり。過去には不正売却株式の返還、不正買付株式の削除などの原状回復を実施したと報じられている | 野村證券 |
| 大和証券 | 個別の事情に応じて補償。不正売却株式の返還や不正買付株式の削除といった原状回復措置を実施したとされる | 大和証券 |
| SMBC日興証券 | 個別の事情に応じて補償。原状回復措置を実施したとされる | SMBC日興証券 |
| みずほ証券 | 個別の事情に応じて補償。原状回復措置を実施したとされる | みずほ証券 |
| 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 | 個別の事情に応じて補償。原状回復措置を実施したとされる | 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 |
※ 「各社の方針は2026年10月25日時点で確認」
各社の補償方針をチェックする際の4つの注意点
- 一律の全額補償ではない
JSDAの10社申し合わせはあくまで「一定の被害補償を行う方針」です。被害状況や証券会社側が発信している注意喚起を顧客が遵守していたかなどを勘案し、最終的には個別対応となります。 - 時期区分が重要
SBI証券は2025年10月26日以降、松井証券は2025年9月29日以降に個別審査へと移行しています。同じ会社の口座でも、被害に遭った日によって補償のハードルが大きく変わります。 - セキュリティ設定が補償判断に直結する
要素認証やパスキーの設定状況、フィッシングサイトへの情報入力の有無などが考慮される可能性があります。 - 対象外の損失が存在する
配当金や分配金、株主優待の権利喪失、システム障害による機会損失などは、公表されている方針上、補償対象外とされるケースが多く見受けられます。
「パスワードを英数字記号を混ぜて複雑にしているから大丈夫」と思っている方は要注意です。各社がパスキー認証を導入した現在、それを利用しないことは「顧客側の落ち度」とみなされ、補償交渉において圧倒的に不利になるケースが明記され始めています。
証券会社側の対策が進んだからこそ、設定を怠った顧客側が不利になる。皮肉ですが、これが今のルールの構造です。
サブ口座まで徹底すべき全口座セキュリティ総点検
ここまで読んで、「メインで使っている証券口座はちゃんとパスキーを設定したから安心だ」と胸を撫で下ろした方もいるかもしれません。しかし、そこに大きな落とし穴があります。
それは、ログイン頻度の低い「サブ口座」の存在です。
「サブ口座には大した金額を入れていないから、万が一抜かれても平気」と考えるのは非常に危険です。証券口座は銀行口座と連携していることが多く、そこから被害が波及するリスクがあります。例えば、楽天マネーブリッジやSBIハイブリッド預金のようなスイープ口座(自動入出金機能)を設定している場合、証券口座を突破されると連携する銀行口座の資金まで危険にさらされます。
放置されたサブ口座は、無防備に現金を置いているのと同じです。メイン口座と同じようにセキュリティ対策を実施しましょう。
きちんと管理した口座分散は、先述した口座ロックなどの流動性リスクへの有効な備えにもなります。万が一メイン口座が凍結されても、サブ口座に当面の生活資金があれば致命傷にはなりません。これを機に、放置しがちなサブ口座のセキュリティも必ず見直しておきましょう。
まとめ:今すぐすべての証券口座でパスキー設定を!
今回は、証券口座の不正取引補償に関する最新の状況と、私たちが取るべき防衛策について解説しました。要点は以下の通りです。
- ネット証券の「一律50%補償」の時代はすでに終わり、現在は「個別審査」へ移行している
- パスキーや多要素認証の設定をしていない場合、補償対象外や減額になるリスクが極めて高い
- 金銭的補償以上に、資産凍結による「流動性リスク(資金ロック)」がFIRE民には致命的となる
- メイン口座だけでなく、放置しがちな「サブ口座」のセキュリティ設定も早急に行う必要がある
各証券会社の補償方針やセキュリティシステムは、今後も予告なく変更される可能性があります。必ずご自身が利用されている証券会社の公式ページを定期的に確認するようにしてください。
自分の資産を守れるのは、最終的には自分自身のセキュリティ設定だけです。「あとでやろう」と後回しにせず、この記事を読み終えた今、そのまま証券会社のアプリを開いて設定を済ませてしまいましょう。
PS
皆さんは、利用しているすべての証券口座(特にサブ口座!)のパスキー設定、もう完了していますか?「メインはやってたけどサブは忘れてた!」「やり方がわからなくて放置している」など、現在の状況やセキュリティに関する疑問があれば、ぜひコメント欄で教えてください。お待ちしています。



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